100人に約6人がかかる病気「うつ病」の初期症状・特徴

うつ病を引き起こすきっかけや発症の原因

うつ病はどのようなきっかけや原因で発症に至るのでしょうか。

実はこれまでの研究により、うつ病を引き起こすきっかけは一つではない可能性が高いということが分かっています。
非常につらい出来事や人生上のストレスが原因になることが多いのですが、それ以前に性格や遺伝、休息不足や睡眠不足などいくつかの要因が重なって発症することも珍しくありません。

うつ病がなぜどのように発症するかは未だ解明できていませんが、次のようなきっかけや原因でうつ病を引き起こすことが多いとされています。

性別・年齢などによる悩み

性別や年齢における役割の変化によって、うつ病が発症する可能性があります。

例えば性別では、男性よりも女性の方がうつ病にかかる人が多いとされています。
信州大学医学部が2018年に発表した「うつ病の性差について」という論文によると、女性は男性の2倍うつ病にかかりやすいことが分かっています。

また出産後のホルモンバランスの変化等で起こる「産後うつ」や、年齢を重ねることで発症する「老人性うつ病」などもうつ病の一種。
うつ病は子どもから高齢者まで、広い年齢層で発症する可能性がありますが、日本では中年期以降に発症する割合が高いという結果も。

年齢を重ねるにつれ、職場(昇進・降格)や家庭(結婚・出産)での役割に変化が起きます。
本来なら喜ばしいはずの昇進や結婚などでも、環境の変化や人間関係等でストレスを抱え、うつ病を発症することがあるのです。

参考: http://s-igaku.umin.jp/DATA/66_03/66_03_02.pdf

ストレスやショックを感じた出来事

うつ病を発症するきっかけになりやすいのが、強いストレスやショックを受けた出来事です。
家族や親しい友人の死、大切なもの(仕事・財産・健康など)を失うこと、人間関係(職場・家庭内)のトラブルなど。

また災害や事故、事件などに遭ってしまった場合も、うつ病を発症する原因となります。

ただストレに対する反応は個人差があり、同じような状況であっても、それをストレスと感じない人もいれば強く感じてしまう人もいます。
「喪失感」によるストレスはうつ病を発症する大きな要因になりますが、ストレス耐性は人それぞれ異なるため、全ての人が必ずしもうつ病を発症するとは限りません。

トラウマ体験

トラウマ体験もうつ病を発症するきっかけになり得ます。
トラウマ(心的外傷)体験後の比較的早い段階に発症する病気はPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)と呼ばれ、日本語では「心的外傷後ストレス障害」という病名がつけられています。

災害や事故といった死の危険に直面した後に発症することが多いですが、過去の暴力や暴言などが原因のことも。
そういった体験の記憶が、自分の意思とは無関係に思い出され(フラッシュバック)、不安や緊張が高まったり、悪夢を見たりする症状です。

ペンシルベニア大学が医学誌「Journal of Clinical Psychiatry(臨床精神医学ジャーナル)」で発表した論文によると、20代までに女性が経験したトラウマ(心的外傷)は、閉経前後(更年期)にうつ病を発症するリスクを高める原因であるとしています。

PTSDは多くの人にとっては一過性の病気ですが、時間が経っても楽にならなかったり、ますますストレスを感じてしまったりすると、うつ病を発症することがあるのです。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17485609/

自分で気づく症状

うつ病は心の病気とみなされがちですが、実は脳の病気です。脳が誤作動を起こすことで、自分でも気づく次のような症状がみられます。

気分の落ち込み(抑うつ気分)

うつ病の典型的な症状が、気分の落ち込みです。
このような状態を「抑うつ」といい、何をしても楽しめない、一日中気分が落ち込んでいるという自覚症状がみられます。

とくに気分が落ち込むような出来事が思い当たらなかったり、原因と思われる問題が解決した後も気分が回復しないと、うつ病の可能性が高いでしょう。

誰しもやる気が出なかったり気分が落ち込んだりするときはあります。
ただ多くの場合は、時間が経つにつれて気分が軽くなり元気を取り戻すことがほとんど。

しかしうつ病による抑うつ状態は時間が経っても治りません。
そのため抑うつ状態が2週間以上続く場合は、うつ病を疑った方がいいでしょう。

意欲や興味の低下・喜びの喪失

意欲や興味の低下、喜びの感情の喪失もうつ病によくみられる症状の一つです。

以前なら楽しかったスポーツや趣味をしても気分が晴れない、物事への関心や興味が持てないなど喜びや楽しさといったポジティブな感情を抱きにくくなったと感じたら、うつ病の可能性があります。

さらには「人と話すことが億劫だ」「何をしても面白いと思わない」と感じるようになり、周囲からすると人が変わったようになることも。
活気なく家でぼんやりすることが多くなり、外出や周囲との交流が明らかに減っていきます。

ネガティブ思考

うつ病を発症すると、物事のとらえ方が悲観的(ネガティブ)になります。
そのため以前なら乗り越えられた問題も辛く感じられ、自分がダメな人間だと思うように。

イライラしたり焦る気持ちが出てきて、ネガティブ思考から抜け出せずに、被害妄想が出るなど深みにはまってしまうこともあります。

自分を責めてしまう

うつ病になると自己評価が極端に下がってしまうため、「周囲に迷惑をかけてばかりだ」「自分は価値のない人間だ」のように自分のことを責めてしまいます。

とくに理由もないのに必要以上に自分を責めたり、訳もなく涙が出てきたりして誰も気にしないような些細な事を思い出しては、いつまでもクヨクヨ悩んでしまう人も。

死にたいと思ってしまう

うつ病の症状が進んで重症になると、死にたいと思うようになります。

「生きているのに疲れた」「この世から消えたい」といった気持になり、繰り返し死について考えたり(希死念慮)、実際に死のうとしてしまう場合も。
うつ病の症状があまりに重いと、死にたい気持ちがあってもそれを行動に起こす気力がなくなってしまいますが、少し元気が出始めたときには注意が必要です。

死にたいと思う気持ちが非常に強い場合は、入院して経過を見ることもあります。
このような気持ちになったら、なるべく早めに専門の医療機関に相談しましょう。

身体に現れるうつ病のサイン

うつ病になると上で紹介した精神的な症状の他に、身体な症状として現れることがあります。

他の病気のように血液検査や画像検査等で異常を見つけられないため、精神的な症状の他に身体に現れるサインも見逃さず、専門医への受診につなげましょう。

体が疲れやすい、だるい

うつ病になると絶えず身体がだるく感じたり、すぐに疲れやすくなります。
原因が分からない倦怠感があるのも、うつ病の身体的症状です。

仕事や家事はもちろんのこと、着替えや歯磨きといった日常的な動作でも疲れを感じる人も。
症状が重くなると、座っていることさえ疲れてしまい、一日中横になっていることしかできなくなるケースもあります。

食欲の低下・過食

食欲の低下もうつ病のサインです。
食べることは人間が生きるために最低限必要なもの。

しかしうつ病になると、食欲のような基本的な人間の欲求さえも喪失してしまうためです。
普段よりも食べる量が減ったり、まったく食事を受け付けない人も出てきます。

無理に食べようとしても美味しいと思うことは少なく、何を食べても「砂を噛む」ような味気無さを感じるようです。
逆に「過食性障害」を併発して、過食に走る人もいます。

不眠や過眠

うつ病になると、不眠や過眠といった睡眠障害で悩む人が多くいます。
うつ病では睡眠障害の症状が最も出やすいですが、症状は人それぞれに異なります。

入眠障害寝つきが悪い・いつまでも眠れない
中途覚醒夜中に何度も目が覚めてしまう
早朝覚醒いつもより早く目が覚めてしまい、そのあと眠れない
熟眠障害ある程度寝ているのにぐっすり眠れたという満足感が得られない
過眠一日中眠気を感じてひたすら寝てしまう

とくに早朝覚醒は、うつ病の症状として現れやすくなっています。
満足な睡眠がとれないと、朝起きた時から疲労感を感じ、その状態が続くと身体の調子もさらに悪くなってしまうという悪循環に陥ります。

頭痛

頭痛もうつ病で現れる身体的症状の一つです。

「いつも頭が痛い」「薬を飲んでも頭痛が収まらない」という症状に、うつ病が隠れている可能性があります。

うつ病を発症すると精神的に不安定になり、通常よりも痛みに対して敏感になるからだというのがその理由です。
精神的な不安定さから、普段なら気にならなかったような重だるさやちょっとした頭痛にも敏感になり、痛みが増幅して感じられます。

うつ病が原因の頭痛が起こっているケースでは、頭痛薬で治ることはほとんどなく、適切なうつ病の治療をしなければ改善することはありません。

動悸

動悸が収まらないのも、うつ病で現れる身体的症状です。
うつ病になると精神的な不安が高まり、些細なことでストレスと感じてしまいます。

ストレスがかかると交感神経が活発に働き、心拍数が上昇し末梢神経が収縮します。
これにより血圧が上昇して動悸が収まらないというメカニズムです。
健康な時でも、ストレスが加わることによって動悸が起こります。

しかしうつ病になるとストレスを受けている時間が増えてしまうことで、絶えず動悸を感じるようになるという訳です。

めまい

うつ病になるとめまいを感じる人もいます。
うつ病で病院を受診している人の10~30%に心因性のめまいが発症しているという報告があります。

なぜめまいが起こるのかという原因ははっきり分かっていませんが、精神的不安や抑うつ状態といった要因が、交感神経に余計に影響を及ぼすのではないかと見られています。

さらにストレスや自律神経の乱れによって血圧が急激に上下し、脳に運ばれる血液量が不安定になりめまいが発生するというケースも。
現にうつ病以外のパニック障害や不安障害、うつ状態でも心因性のめまいを発症することがあります。

便秘や下痢

うつ病患者の中には、便秘や下痢で悩んでいる人も多くいます。
「精神疾患なのにどうして消化器に異常が?」と思われるかもしれませんが、主に2つの理由があると考えられます。

一つ目が脳の神経伝達物質のセロトニン不足によるもの。
セロトニンは幸せホルモンと呼ばれ、そのほどんとが腸管で作られます。
セロトニンは自律神経のバランスを整え、腸の働きを活発にする作用があります。

しかしうつ病になるとセロトニンの量が減少したり、うまく脳に伝達されなくなるため、便秘になりやすくなるのです。

もう一つの理由は腸内細菌の乱れです。
うつ病などの精神疾患がある人は、大腸に異常がある訳でないのに下痢や便秘が起こる「過敏性腸症候群」を発症している割合が高いという報告があります。

この過敏性腸症候群は、腸内細菌に深い関係があると考えられているためです。

周囲の人にも分かるうつ病のサイン

うつ病は治療を早く始められると、それだけ治りも早くなります。
そこで周囲の人がこれから紹介するうつ病のサインを敏感に感じることで、本人に医療機関の受診を促し、早期にうつ病治療に取りかかることができるでしょう。

顔つき・表情が暗い

うつ病になると、顔つきや表情に次のような特徴が現れやすくなります。

●無表情になりやすい
●ぼーっとしている
●作り笑いなど無理をして笑っている
●顔色が悪い
●表情が暗い

以前と違いこのような顔つきをしていることが増えたなと感じたら、うつ状態になっていることを疑ってもいいでしょう。

集中力がない・不安で落ち着かない

集中力を維持できなかったり、落ち着きがなくなると、うつ病の可能性があります。
とくに人が多い場所では不安で落ち着きがなくなり、じっとしていられなくなることも。

さらに注意力が散漫になるため、これまで普通にできていた仕事や家事で、ケアレスミスを連発してしまいます。

動作が遅くなる

以前に比べて動作が遅くなった、口数が減った、動きがぎこちなくなったと感じたら、うつ病を疑ってみましょう。
うつ病になると思考抑制が起こり、考えがまとまらない・些細な決断ができないという症状が現れます。

それと同時に行動抑制も起こり、身体の動きが遅くなるためです。
朝の支度など日常動作にもかなり時間がかかり、仕事や勉強が思うように進められなくなります。

イライラして攻撃的

うつ病になると気分が落ち込むことはよく知られていますが、逆にイライラして攻撃的になることもあります。
理由がない不安や焦燥感からイライラして、些細な事に反応して不機嫌になったり攻撃的になったりします。

飲酒量の増加

うつ病になると飲酒量が増加するケースも見られます。
うつ病になると睡眠障害や抑うつに悩まされるのは上で説明した通りですが、それを解消する手段としてアルコールに助けを求めてしまうからです。

アルコールを毎日摂取していると耐性ができ、次第に酒量は増えていきます。
そしてアルコールを長期的に摂取すると、結果として抑うつ傾向が高まってしまいます。

またアルコールは睡眠の質を悪化させるため、この悪循環によってうつ病の症状は悪化してしまうのです。

セルフチェックしてみましょう

自分が「うつ病かな?」と思ったら、まずはセルフチェックをしてみましょう。
家族や周囲の人がうつ病かなというときの判断の材料にもなります。

うつ病は判断が難しい

うつ病の判断は、専門家でも難しいのが現状です。
それは、身体的な病気のように血液検査や画像検査などで見つけることができないためです。
うつ病の診断が可能な精神科や心療内科では、専用のチェックリストや患者からの詳しい聞き取りに基づいて診断を下します。

とはいえ「何事に対しても興味が持てない」「憂うつな気分が続いている」いう症状がほぼ一日中、2週間以上毎日続いているようならうつ状態の可能性が高いでしょう。

うつ病になりやすい人は、どんな人?

うつ病になりやすい「気質(性格)」というものがあります。
次のような性格の人は、そうでない人に比べて、うつ病になりやすいと言えるでしょう。

●几帳面
●生真面目
●完璧主義
●仕事熱心
●凝り性
●自分に厳しい
●道徳観・義務感が強い
●他人への気遣いが強い

このような性格の人は、柔軟な思考や臨機応変な対応が苦手で、人からの依頼を断ることができずにたくさんの仕事や依頼を引き受けざるを得なくなります。

また周囲からのストレスを受けやすいために、うつ病になりやすいと考えられます。

うつ病の人がとる行動パターン

うつ病の人がとる行動には、次のようなパターンがあります。
自分や周囲の人が「以前と変わったようだ」と感じたら、うつ病を発症しているかもしれません。

●絶えずウロウロして落ち着きがなくなる
●些細なことでも怒りっぽくなる
●家事や仕事でちょっとしたミスが増える
●人との付き合いを避けるようになる
●身の回りの整理整頓ができなくなる
●異常な眠気に襲われる
●遅刻や無断欠勤が増える
●電話やメールが面倒になる

うつ病になると抑うつ状態により表情がなくなったり動作が遅くなるだけでなく、落ち着きがなくなったり注意力が散漫になってミスが増えます。
人によっては怒りっぽくなったり暴力的になることもあります。

また日常の動作や人とかかわることが億劫になるため、遅刻が増えたり人からの誘いを断ってひきこもりがちになったりします。

うつ病は気分障害の一つと言われているけど「気分」と「病気」の違いは?

誰しも日常生活を送る中で気分が落ち込んだり、憂うつになったりすることはあります。
また人間関係のストレスや失業、大切な人との別れなどで辛く悲しい気持ちになることもあるでしょう。
そのような落ち込んだ「気分」は、原因が解消されたり、気分転換や時間が経つことである程度回復していきます。

しかしうつ病という「病気」の場合は、気分が落ち込むような原因が特に思い当たらないことも多く、またその原因が解消しても回復しないのが特徴です。
時間が経っても癒されることはなく、横になったまま動けなくなったり、仕事や学校に行けないなどの日常生活に大きな支障が生じてしまうため、適切な治療が必要になるのです。

うつ病と適応障害の違い

うつ病と似た症状の病気に「適応障害」がありますが、どう違うのでしょうか。

うつ病の原因は一つではなく、ストレスや性格、遺伝や休息不足など様々な問題が複雑に絡み合って発症します。
一方で適応障害は、そのストレスの原因がはっきりしている場合に、ストレスに対する直接の反応としてうつ状態が生じます。

ストレスの原因は人間関係や仕事、家族など人によって様々ですが、ストレスになっている原因や環境から離れることで、症状は改善されます。

適応障害になりやすいのはストレス耐性が弱い人や気持ちの切り替えが下手な人、繊細で傷つきやすく悩みを抱え込みがちな人です。
うつ病になりやすい性格と重なる部分があり、症状も似ているので、適応障害を放置したままでいるとうつ病に移行するケースも。

適応障害は明らかなストレス要因をきっかけとして、3カ月以内に不安や気持ちの落ち込みなどの症状が現れると診断されます。

ただしうつ病よりも症状は重くなく、ストレス要因が解消すれば半年程度で症状は改善されることがほとんどです。